コーヒー生産への深い愛情
ドン・マヨ マイクロミルを設立したヘクトル・ボニージャ氏は、2000年代初頭のマイクロミル革命の火付け役の1人です。ヘクトル氏は、『私は生まれたときからコーヒー生産者ですよ。』と朗らかに語る通り、常に最高品質のコーヒーを求め、研究・勉強を重ね、コーヒー生産に投資を続け、新しい農地や品種の開拓を行ってきました。
Cup of Excellenceにおいても、2008年3位、翌年2009年は優勝を果たし、タラスという生産地の名を広げた功労者でもあります。それ以降も毎年のようにCOE入賞を果たしており、決して驕ることなく絶えず努力を続ける生真面目さを物語っています。こうしたボニージャ・ファミリーのコーヒー生産における献身的な姿は、地域の生産者の目標となっています。
2つのプロセスの成果を投影して
ロス・トゥカネス農園もそうした農園の1つで、山風の吹き下ろす崖の急こう配が特徴的な農園で2015年より生産を開始しました。ロス・トゥカネスで生産されるコーヒーは、雨季乾季がハッキリと分れるマイクロクライメットの恩恵を受け、糖を多く溜め込んでおり、甘くジューシーな風味が特徴です。ロス・トゥカネスのブルボンは、雨季乾季がハッキリと別れるマイクロクライメットの恩恵を受け、非常に糖を多く溜め込んでおり、透明感と甘さが際立っています。その一方でシンプルさゆえに、より複雑な甘さと風味がこのコーヒーの課題の1つでもありました。
この課題を克服したのは、ドン・マヨの冷涼な土地環境だからこそ行う事ができるレッドハニーでのスロードライでした。通常レッドハニーは、そのミューシレージの残存量から、発酵リスクやそれに伴うクリーンカップの低減リスクがあり、スロードライに向いていません。しかし、ドン・マヨの乾燥場では、朝晩は5℃まで冷え込むために、ミューシレージの分解がされず、発酵のリスクを避ける事ができたのです。2014年から取り組んできたこのスロードライの実現は、より複雑な風味をもたらしました。また一方で2日間撹拌をせずに放置する事も可能にし、ミューシレージ成分による恩恵を十分に得るため、より多層的な甘さの表現が可能となったと言います。
これに加えて、2020年から新たに嫌気性発酵(アナエロビックファーメンテーション)の研究も進め、ドン・マヨ独自のレシピで自分たちの味づくりを試行錯誤し、ゲイシャなど特徴的な風味を有する希少品種を中心に実践してきました。独自の嫌気性発酵プロセスは、過度な発酵を抑えクリーンカップを担保しながら、フレーバーや酸、甘さの質感を変化させ、ドンマヨに新しい風味を齎してくれました。
そして、改めて自分たちがドンマヨのシンボルとして最も“らしさ”を表現したいブルボン種そしてハニープロセスにこの2つの成果を投影し、アナエロビックハニーという新しいプロセスへ挑戦しています。
アナエロビックハニー
本ロットにおいては、収穫したブルボンのチェリーを4日間、密閉したタンク内で嫌気性発酵を行います。この時に、チェリーの量に対して決まった比率の水を加えて密閉するのがドン・マヨのレシピです。彼らのミルの気候条件やチェリーの熟度、最終的なカップのバランスからレシピを決定していると言います。4日間の発酵処理が完了すると、チェリーの果肉を除去し、ウェットパーチメントにします。その後、レッドハニーのスロードライングのレシピを活かして通気の取れた室内乾燥場(3段式のアフリカンベッド)に移動し、乾燥状態に応じて段を変えながら、1カ月かけてゆっくりとスロードライを行っていきます。長年培ってきたノウハウを活かして、過度な発酵のリスクを避け、より複雑な風味を演出することに重点を置いています。
農園の管理、チェリーの収量や生産処理・乾燥において、他のコーヒーとは比較にならない手間と労力を要しています。しかし『努力を惜しまず献身的にコーヒー生産に従事する。』この当たり前のようで、誰もが真似できない事こそ、ドン・マヨの“らしさ”であり、また、自分たちの歩んできた道の中、試行錯誤の歴史の上に今があり進歩してきた。だからこそ自分たちにしか作る事ができないコーヒー、私たちが目指す豊かで多層的な味わいを持ったコーヒーができると信じていると語ります。